
立ちどまるから見えてくる
先週は市街地で最高気温が30℃を超え、急な暑さに身体が驚いておりましたが、ここ最近は最高気温が15℃前後の肌寒い日が続いております。
ヤマセと呼ばれる、この地域特有の冷涼な風が吹き込む季節となり、日々のウェアリングに悩まされる今日この頃です。
※ヤマセ(やませ)とは、初夏から夏にかけて日本の太平洋側(主に東北地方)に吹く、冷涼で湿った北東の偏東風のことです。オホーツク海気団(高気圧)から吹き出すことが原因で発生します。元々は「山を背にして吹く風」などの語源を持ち、古くから北海道や東北の東部地域に試練を与えてきた特有の気象現象です。
昔からヤマセが続くと農作物の生育が遅れ、冷害をもたらすことから、農家の方々にとっては悩みの種でもありました。
しかし、奥入瀬の自然にとっては、このヤマセこそが大きな恵みでもあります。
コケやシダをはじめとする湿潤な環境を好む生きものたちにとって、ヤマセがもたらす高い空中湿度はまさに理想的な環境です。


奥入瀬渓流全体を包み込む、湿潤な空気。
そのおかげで、奥入瀬の樹木、とりわけ長い年月を生きてきた老齢木の幹や枝には、びっしりとコケが着生します。オオギボウシゴケモドキやイタチゴケなどが厚いマット状に広がり、まるで空中に浮かぶ土壌のような役割を果たしています。
そして、その小さな土壌には新たな生命が根を下ろします。

・フガクスズムシソウ
・ヒロハツリシュスラン
・ヒナチドリ
などのランの仲間。


・シノブ
・ホテイシダ
・ビロードシダ
・スギラン
・オシャグジデンダ
・イワオモダカ
などのシダ植物たち。
本来なら地上に生える植物たちが、樹上のコケマットを住処として暮らしているのです。
まるで天空に浮かぶ島々のようなその世界は、私たちの目線よりはるか上にありながら、確かに森の一部として息づいています。
奥入瀬の森の大きな特徴の一つは、地上だけでなく樹上にも豊かな生態系が広がり、森全体が立体的につながっていることです。
散策の際は足元のコケや小さな花々に目を向けるのも楽しいですが、この時期はぜひ首を上げてみてください。
樹上のコケマットの中に暮らす「天界の住人たち」の姿を見つけることができるかもしれません。
そこには、きっと新たな感動が待っています。
ネイチャーガイド:丹羽